■2024年01月13日(土)
書いてあることはまともだけどプロイセン官僚とプロイセン陸軍軍人が合わさったようなメンタリティはちょっときつい
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災害初動期指揮心得 国土交通省東北地方整備局がまとめた東日本大震災の反省文書です。 正直書かれている内容は現場の取りまとめに当たった権力組織として極めてまっとうで、市民としてもこの手の役所がこういう対応をすることを前提にしておけばいいという意味で参考になりますし、もちろん組織的な緊急対応論の面からも参考になります。BCPの上で参考になる部分も少なくないでしょう。 とはいえ、警察でもない文民組織がこういう軍隊みたいな発想をしているのだということはある意味衝撃的でもあります。もちろん組織論はそれこそ軍隊や軍事行動の知見をベースにしているのですが、それにもまして目立つのは、東北地方整備局でこの資料の取りまとめに当たった公務員が権力組織の一員としての高級軍人じみた極めて高い職務意識を持っていることです。もちろん権力機構の一員として有益な部分は多く、特に緊急対応のような行動と決断が重視される状況ではプラスに働くことは多いでしょう。とはいえ、こんなお上意識、啓蒙専制君主的な意味での公僕意識に満ち溢れた公務員など相手にしたくありません。官僚組織というのは役に立つことに意味があるのではなくルール通りに動くことに意味があるのであり(役に立つようにルールを整備するのは国会と内閣の役目です)、例え組織目的に即したものでも越権行為を是認するような発想を官僚レベルがしているのは危険を感じます。近いところでは昭和前期の革新官僚、そしてそのモデルになったのであろうプロイセン官僚とプロイセン陸軍軍人を見る思いです。いっそ緊急時には陸上自衛隊の司令部組織の指揮下に統合した方がいいんじゃないのと言いたくなりました。 また「復旧」に拘るところも少し疑問に感じます。書いてある通り最優先なのは人命救助であり、そのための交通アクセスの確保は極めて重要で、個人的には強権の発動すら躊躇するべきではないと思います。しかし、例えば津波で流れ込んだ水の排水のような復旧は、地方整備局としての役割には即しているでしょうが、もしかすると無駄な作業かもしれません。また津波によって損害を受けた港湾を啓開する業務(基本的には浮遊物の除去や流れ込んだ土砂の浚渫)について書かれていますが、これは港湾を拠点とした物流の確保のためでしょう。しかし、その物流は何のためでしょうか。例えば陸上自衛隊は、海上自衛隊の揚陸輸送艦やDLHの支援があれば戦闘団規模の部隊が数週間活動を続けることができるはずです。揚陸輸送艦はそもそも普通には接岸できない海岸に部隊や物資を揚陸するための船ですし、DLHは沖合からヘリを飛ばして物資を揚陸することができます。つまり物資の供給を必要とする人を物資が通常の物流を通じて供給されている地域に移送してしまえば、当座最低限の兵站だけで対応行動が可能になるはずです。それを無暗に早期の復旧を目指して対応する必要は、あったでしょうか。単なる官僚組織としての前動続行の例ではないでしょうか。 こういう組織が緊急事態に備える意欲を示していること自体は心強いものですが、正直それが発揮されることのないようシビルディフェンスを心掛けないといけないと感じました。特に災害時に被災場所に居座って復旧を待っているとこの手の組織に負担もかかれば専横を許すことにもなりますので、連絡手段の確保を含めて当座のアウタルキー性を高めるとともに、少なくとも逃げる方法ができたらさっさと地域を放棄して避難する、それだけの能力や余裕を持つことが大事、インフラが破壊された地域の復旧に拘らないことが大事という気がします。 | | |