■2023年01月14日(土)
家族って何の部分とかは圧巻です
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正しいパンツのたたみ方 新しい家庭科勉強法, 岩波書店 実践的なアプローチによる教育論としてはなかなか面白いと思います。家庭科の内容の捉え方については共感できる部分が結構ありますし、現行学習指導要領のトレンドに基づくものとしてはあって良い実践です。生活技術の骨格を洗練された形で教授するという家庭科の目的や体育と並んでアラカルト的なものになっているという認識は正当ですし、副教科とされるものの無視されてよいものではないという主張はもっともです。そもそも学校で教授する必要を程度はともかく確信しているからこそ文科省は履修科目に含めているわけです。昨今よく話題になる「情報」あたりも、応用や倫理を扱う部分ではむしろ家庭科的な範疇での実践につながる部分は少なからずあるでしょう。さすがに高校だとどうなのかとは思いますが、初等教育のレベルでは最初等部分、つまり字を覚えたり四則演算を覚えたりする部分を除いて、国語算数社会理科外国語を生活音楽図工家庭体育から導く指導法もあり得るかもしれないなと思いました。前期中等教育レベル(=中学校)でもありかもしれません。 良いところはそれこそ読んでもらえばよいとして、気になった点はあります。 まず思想として懐古趣味的である点は気になりました。もっとも家庭科という科目、あるいは学校という仕組み自体が少なからず懐古趣味的ではあるわけですし、そこにそういうものの存在意義もあるのですが、仕事の価値は個人として社会での役割を果たすことにあるなんてのは鼻につきます。 また、実践に基づくにせよどうなのかなというトリビアも見受けられました。例えば朝食として甘いものに代表される糖質を摂りすぎると眠くなるといった記述がありますが、傾向としてはあるにせよ、では「日本の朝食」ならいいのかというとあまりそうは思えません。ダメというよりは、そもそも眠気を催す生理的仕組みを解明する部分でバイアスがかかっている可能性があります。例えばイギリス式やイタリア流の朝食では朝に甘いものを取る習慣があります。ではイギリス人やイタリア人が朝は居眠りばかりしているかと言うと、見た感じ比率としては日本の学校よりはよほどましです。もっともこのあたりは、家庭科における調理関係の理論は農水省と文科省ご推薦の現代和食論を普及する宣伝のためのものでしかないので、それに曝され続ける学校教師がある意味洗脳されてしまうのは仕方ないと思います。個人的にはあれは間違っていると思いますが。 ところで本書では高校家庭科の実践が扱われています。家庭科としての内容はともかくとして、それを高校、後期中等教育で扱うべきかどうかについては正直疑問を感じなくもありません。というのは、高校は実質はともかく今の日本の学校制度の中ではオプショナルなものだからです。ヨーロッパのように基準となる年齢で言えば17歳までは義務教育と位置付けてしまうならともかく、制度的に行かない選択肢がありうる状況で本書で取り上げられているような内容を高校で扱うことは妥当なのでしょうか。むしろ義務教育の中で扱うべき内容だと思うのですが。もちろん実質的な高校全入の状況の中で出てきている議論とは思いますが、制度が実情に追い付いていないとか、制度の理念が活かされていないという感があります。 | | |