■2021年10月10日(日)
押し付けがましさを我慢すれば事例は参考になる本
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孤独は社会問題 - 孤独対策先進国イギリスの取り組み, 多賀幹子 事例としては参考になる部分がありますが、読んでいて不快な本です。 孤独は不健全だ、何としてもなくすべきだという信念に溢れています。健康ファシズムの一種でしょう。もっともあちらも孤独を好む志向というのは理解に苦しむものであるようで、お互いさまではあります。 イギリス礼賛本の側面も持っています。事例の中にはこれのどこが良いのか、英国面じゃないかというものもありますし、この程度のことは日本でも事例があるというものもあります。またトラム好きには看過できない話もあります。 孤独は実際多くの問題を引き起こします。死んでも見つかりませんし、処理の担当者が身近にいないこともあり、その分処理が面倒になります。病気になった場合も気づかないうちに取り返しのつかない状況になっていることがあり得ます。周囲から得られる気づきで対応できることはあるでしょう。引き籠っていれば体も弱りがちです。衝撃的な状況が生じたときにパニックを起こす可能性もありますが、その際も本人が収拾しなければなりません。 また本人が望まないにもかかわらず孤独に陥っていることは重大な問題です。私が人の中にいるときに感じる不安や恐怖に類するものを、望まない孤独にある人は孤独の中で感じているのでしょう。まあ、緊張は感じないような気がしますが、別種の、自分で何とかしなければならないという緊張は一人でいれば感じるものです。 一人で住む人を家の外に導く仕組みは望ましいと思います。フリーパスは沿線の人が少し離れたなにがしかの施設、図書館でも商業施設でも体育施設でも公園でもよいですが、そういったものを訪れる手段を提供します。またその時に、施設がバリアフリーであることも大事でしょう。医療機関へのアクセスも大事です。もっとも治療に際してとにかく待たされるというのはイギリスのNHSに関してよく聞かれる苦情です。もちろん人によってはなくても困りませんし、別に医療など受けずとも終わるときは終わるという考え方もあるわけですが、それでは社会の側が困ります。正確には、社会において人を管理している政府の担当者が困ります。病気があるのに治療せず進行させてしまえば見つけたときに対応を強いられますし、家の食糧備蓄や燃料備蓄が尽きた状況もそうです。端的に言えば、一人で死なれると後始末に振り回されるのです。そのような状態にならないための方法は困る側が整備しておくべきですし、一方で孤独を好むとしても社会との妥協は必要でしょう。放っておいてほしくても放っておけない仕組みに困る側が縛られているのですから、他人を困らせたくて孤独でいるのでない以上配慮はすることが望ましいのです。 また孤独から脱出することを望む人にその手段を用意しておくこと、その手段へのアクセスを簡便なものとしておくことも大事です。余計なお世話はごめんだという人への配慮は必要ですが、望まない孤独に放置することはより問題でしょう。 著者は主として都市部で生活していたようで、レポートも都市やせいぜい近郊でのものです。孤独対策にしてもそうですが、人口過疎地での対応が最もコスト面で難しいものになります。過疎地と言っても百戸程度の集落が主要な施設から10km以上離れたところにある程度の話ですが、サポートは必要であるもののコストが負担しきれない状況があることは、それこそ日本でもよく聞くことです。そのような場合に、多額の費用をかけてもサポートを提供するのか、それとも人の方がより便利な場所に移るのかという事例は欲しかったところです。 | | |