■2019年06月13日(木)
社会改良で身を亡ぼす道徳的知識人
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資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界, ISBN978-4-06-513310-1 前著の市場と権力 改革に憑かれた経済学者の肖像を先に読み始めているのですが、こちらの方を先に読み終えてしまいました。竹中平蔵氏については相当に距離を置いている感じの著者ですが、本著では非常に入れ込んでいるように思えます。 普通に偉人伝風の構成です。日経と東洋経済出身の社会派ジャーナリストには、この手の本を書かせると非常に上手な人が結構いますね。そのあたりは社風なのかもしれません。ただどちらも社会問題については保守的なところだと思うのですが、なぜか社会派のフリージャーナリストが多数、日経や東洋経済の記者の経歴を持っています。 流れとしては、学業優秀、めきめきと才覚を現し、学問の世界で活躍するが、後半生に社会問題に手を出して挫折という感じで、割と日本出身の知識人の典型のように思えます。ネオリベラリズムへの批判については対象の傾向なのか著者の問題意識の反映なのか判然としませんが、戦中期の一高出身ではネオコンサバティブやネオリベラリズムとの相性はあまり良くなかっただろうという気はします。ピュアな市場主義の人には、政府を信じない人と市場を信じ切っている人がいますが、本著で描かれる宇沢氏は典型的な前者です。ちなみにインピュアな市場主義者は伝統のある大企業の経営者に多いですが、会社経営の都合と保身しか考えないサラリーマン経営者ですね。社会問題にはまり込んでいく契機として公害問題、特に水俣病問題への傾倒が語られますが、悪役扱いされるチッソや昭和電工にしても、ミッションは化学肥料製造による農業生産性向上への貢献ではあるわけで、問題が起こったときの隠蔽体質のような問題はあるものの、フツーの善意の日本的事業組織だと思うのです。会社の人にとっては職場が維持されるかどうかの問題であるわけで、その中で被害者に感情移入などできるのはよほどのお人よしだけでしょう。他のエピソードにしても同様で、経済学は人の心が問題などとうそぶきつつ自分は人の心がわからなかった人、そういう印象は否定できません。オールドリベラリストによくいるような、善意の偉人、道徳的知識人。意図的かどうかはともかくとして、著者は対象をそのように読めてしまう描き方をしています。 感情移入はしやすいんですけどね。チッソやリーマンブラザーズを事実を曲げてでも弁護するのだって職業専門家の仕事であるという観点からは、一方的な描き方であるとは思います。 | | |