■2019年04月13日(土)
4000万円のために会費900万円ですか
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時代錯誤の「iPod補償金」議論 まあ、定額の中のシェアを奪い合うようなことになると、ぞろ受信端末に課金しろという話が出てきそうな気もしますが。 しかしこの私的録音録画補償金、どういう理由で取られているのかいまだによくわかりません。もちろん、この制度を含めて、著作権制度というのは相当にバイアスのかかった形で人工的に作られたものであって、作品の流通を歪めている部分もあるとは思いますが、なかでも私的録音録画補償金については何を補償しているのか見当がつきません。補償というからには何か、誰かの得べかりし利益を失わせていて、その補償としてこれこれのお金を支払うという理屈のはずです。まず、レコード、磁気テープ、CDなどのメディアから、私的録音録画の範囲内で複製を作成、再生したとして、それ自体が著作権者の得べかりし利益を失わせているとは思えません。もちろんそうした複製を伴う再生への対価がどの程度であるべきかについては議論がありうるとは思いますが、レコードにしろCDにしろ、決して安いものではありません。普通の財布であれば、月に10枚もシングルを買えば他の消費ができないといった額です。これで、複製する分についてはお金は貰ってないから払うようにと言われても、納得しかねます。もちろん複製したものを頒布している場合は全く話が別ですが(そもそもその行為類型を管理するのが制度の目的であるわけですから)、CDの複製を2枚作って車と職場に置くといった話はもちろん、ポータブルプレーヤーへの複製の保存など、そもそも供給者がまともな代替手段を用意していないわけですから、リッピングを規制する方が無体でしょう。本と同じというならそもそも本と同じポータビリティー、つまり電源や再生装置なしでまともに再生できるものを本と同じ程度の価格で供給してしかるべきです。その本にしても、持ち歩きも検索も非常に不便であるわけで、ハードディスクに複製を突っ込むのが権利侵害だなどという議論には非常に不満があります。 とはいえ、放送されたもの、あるいはレンタルされたメディアからの複製ということであれば、特にレンタルは権利者の想定とはかなり異なる利用法であると言わざるを得ないだけに、補償を求められても仕方ないかもしれません。本来放送時の利用料にその分を付加し、あるいはレンタルに際してレンタル業者がその分を払うのが筋と思いますが、自分たちもそもそもそういう用途は想定していない、放送は聞き流すもので、レンタルCDやレンタルDVDは複製などせず見終わったら返却するものだと主張しているなら、現在のような補償金の形も許容範囲内でしょう(そもそも私的録音録画の範疇になるのかどうか)。ただしその場合、石川氏の主張するように、ストリーミングサービスの場合複製はあり得ないから、再生端末に補償金を課すのは間違っているという議論がありえます。 それでも、私的録音録画補償金の額がそれなりのものであるなら、既得権の尊重くらいは考えもするのですが、私的録音補償金管理協会の平成29年度決算によると、補償金収益は41,881,279円です。思わず目を疑ったのですが、JASRACの2017年度決算における著作物使用料収入と目される項目の合計が100億円です。で、私的録音録画補償金が4000万円。これ、補償金収益からの権利者への分配はあってもなくても同じくらいなんではないでしょうか。徴収対象を網羅できていないという主張を考慮しても、10倍はありうるでしょうが100倍ということはなさそうに思います。ということはせいぜいJASRACの権利収入の5パーセント。本当にこの程度の収入しか想定できないのであれば、制度を維持する利益がないと言われても仕方ないように思います。 | | |