日記

■2018年12月31日(月)  あれは散財だったなと後悔したくはないーのは誰でも同じ
「散財ではなかった」 そう思えた10製品
これだから自営業は。読者のおそらく半分以上が買ってもすぐに使わなくなってしまうこと確定のおすすめ品が「野菜消費を加速する、ヘルシオ ホットクック」でしょう。30分でも1時間でも待つだけって、午後8時に帰ってきて20分かけて皮向いて切って1時間待ったら午後10時になりかねないでしょうが。もちろんメーカーだってバカではないのでタイマーがついているわけですが、専業主婦の奥さんが前日夜に準備をして仕掛けておけば翌朝野菜たっぷりのスープを出せるというならともかく、共働きの奥さんに「朝仕掛けておけば夜には野菜たっぷりの献立が出せるよ」なんて言ったら「忙しい朝にそんな段取りできるわけがないでしょうが!それともあなたが段取りしてくれるの?」なんて切れられますよ。まあ、ライターが個人的な感想を書いている体裁なのでそういうのもありだと思いますけど、正直こういうのは独身向けのレンタルコテージなんかに備品として置くものだと思うのです。働き方改革とやらでまとまった休暇を取らされたものの、せっかくの休みにホテルを渡り歩いて忙しく観光するのはうれしくないという人もいると思います。かといって迂闊に貸別荘など借りてしまうと慣れない料理と材料の調達に苦労しかねません。スマートクッカーであれば火加減が少々複雑でも構わないわけですから、カット済みの材料と調味料を滅菌済み真空パウチに入れて管理棟で売る形にしておけば普段料理をしない人でも苦労せずに済みます。もちろん休日にフォンからビーフシチューを作ることを辞さないマニアもいますが、そういう人がスロークッカーはまだしもスマートクッカーに興味を示すかどうかは、微妙でしょう。
個人的には圧力なべの稼働が月に1回くらいなんですが、これって元が取れているのでしょうか。パッキンさえ無事ならずっと使えそうで、最終的には散財ではなかったと結論できると思いますが、月に1回しか使わないものをわざわざ買ったなどと言ったら、自宅にガスオーブンを持っているなどと言ったあらぬ誤解をも招きそうな気がします。

2018年12月31日(月) 
絶望する勇気――グローバル資本主義・原理主義・ポピュリズム
『「テロリストの脅威」』(あえて括弧でくくる必要があることは読めばわかります)の部分で思ったのが、この人は移動の自由をどう考えているのかということでした。移動の自由は近代的自由権の欠くべからざる要素であり、一方でいわゆるグローバル資本主義のよって立つ基礎のひとつでもあります。氏の言う「コミュニズム」において移動する人がどのように扱われるのか、というか、コミュニズムにおいても同時性の成立する範囲での土着性は避けがたいと思うのですが、そのようなコミュニティにおいて新規参入者はどのように遇されるべきかという点も疑問ではあります(もちろん後述の記事の公判で示されている通り、このあたりの議論の方がむしろ氏の望むものでしょう)。しかし、より問題であるのは氏の「難民の受け入れ施設を作る」という発想です。これは、氏が難民に通常の外国人としての待遇すら認めず、ましてや市民としての地位は認めないということを示します(「受け入れ施設」が隔離施設と同義であることは、日本の入国管理における事例を見ても明らかです)。氏の見解がより明らかに示されているのが、次の記事です。
同氏による2015年11月16日の論説の訳
氏は、難民の移動を「緊急事態」と見做しています。それが難民への最低生活の保障のためであるにせよ、あるいは「国体」とも読み替えることができるであろう「異文化」の侵入なり「民主主義」の停止なりを避けるためであるにせよ、「緊急事態」が人権の制限または停止を意味する強い語句であることを氏は前提にしていますし、難民(と避難所が設置される地域の人々)はそれに甘んじるべきであるとすら説いています。おそらく氏の本意は、それが「政治的妥協」であるという主張でしょう。我々は脱出者の生命を無視するようなことはしない、しかし生活習慣上の相違の大きい(大都市ひとつの人口すら凌駕するような)大量の突発的移住者の受け入れ(むしろより直接的に「消化」と言うべきであるような気がしますが)は不可能であり、よって我々は避難所を用意し、生命と安全を保証する、また責任をもって事態をコントロールするということです。もちろん「難民」は元々の居所において生命と安全を脅かされた人のことであり、統制された効率的な輸送と管理された避難所は、(例えば非合法な輸送屋や現地調達された輸送手段、そして管理されない国境突破のような)統制されない移動や管理されない侵入よりも、生命と安全の保障という意味でよほど人道的ではあります。「政治的妥協」としては良い落としどころであることは確かです。どのような方策であってもいずれは絶望をもって閉じられる以上(移住者の「自分たちは受け入れられない」という絶望であれ、先住者の「蛮族の侵攻!」という絶望であれ)、最初に限界(条件)をはっきりさせておき、そこに落とし込むというのはフェアな取り扱いの大前提です。しかし、「納得しないなら来るな!」というのは(そういうことでしょう)「郷に入りては郷に従え」よりもさらに上から目線に見えることもまた確かです。現実政治における落としどころとして受け入れたとしても、「なぜ私たちは避難してきた彼らを犯罪者として隔離するのか」、「私たちはそこに地理的に隔離された異世界を容認できるのか」という問題は生じます。例えば日本で、外国人労働者を導入する企業に外国人労働者を隔離された一定地域に集住させ、管理を義務付けようなどと提案したとすれば、「そんなコストをかけられるか!」という雇い主の妄言はともかくとして、まあ、色々な意味で避難囂々ということになるでしょう。「なぜ我々は隔離されなければならないのか」という疑問と「なぜ彼らを隔離しなければならないのか」という疑問に対する「なぜなら違うから」という以外の、そしてより深刻な「なぜ彼らを養わなければならないのか」という疑問に対する「なぜなら彼らも人間ではあるから」という以外の、説得力のある答えを、少なくとも私は持ち合わせていません。
押さえておくべき点として、氏はなぜ移動が起こるのかという視点を対策の提案に際して意図して棚上げしています。「もちろん、ノルウェイは存在する」の節で論じているように、「移動した先により良い生活があるから」も含めて、これには様々な立ち位置から異なった説明がありえます。そして、それを議論している場合ではなく、とりあえず落としどころが必要なのだというのが氏の立場です。もっとも、とりあえずで5年たったらどうするのだというのも、それこそ東日本大震災に伴う避難で起きたことですし、「この自由を現実化するために前提とされるのは、ラディカルな社会・経済的な革命にほかならない。」というのは、どうも「神の国」に見えてしまうのですが。
問題点として、移住において先住者の承諾は必要かという点があります。少なくとも先進国では、国内での移動の自由は人権として保障されています。土地を買ってそこに住むことは、原則としてだれも妨害できません。平穏に行われるのであればとの限定は付きますが、先住者が転入者を拒否するというのは新聞種になる程度には非常識です。とはいえ、この自由は転入者と先住者が折り合いをつけていくことを期待してもいます。周辺住民が「出て行ってくれ」と表明することも認められた権利ではあるからです。氏が「どれだけの難民が本当に統合されたがっているというのか。」と言うときそれは、折り合いをつけることがそもそも不可能であるなら(氏は記事中でも文献中でも性差別的習慣やタブーの侵犯に対する反応を論じていますが、それ以外であっても)それでも先住者には移住者を受け入れることが求められるのかという問題提起です。そこで「マルクス主義的な観点からすれば、「移動の自由」は資本家が「自由な」労働力を必要としているということと関連している。」、「この自由を現実化するために前提とされるのは、ラディカルな社会・経済的な革命にほかならない。」と言ってしまうことは、移動の自由は実力によって保障されるというのと同じくらい棚上げ感の漂う言動ですが、それこそ近世までの移動が近代において移動の自由がパラダイムの転換とされる程度に限定されるものであった(少なくとも今時の勤め人の転勤とは比べ物にならないくらいの例外的なことだった: もっとも非定住民も同じように普通にいたわけですが)と考えれば難しい問題であることは理解できます。

2018年12月29日(土) 
ファーウェイ製スマホの未来はどうなってしまうのか――キャリアに判断を迫る、アメリカ「国防権限法」
投資家向けの動向記事という感じですが…日本での展開が鈍る可能性は十分あるとして、それがどれだけ痛手になるかというのは別の問題という気がします。またソフトバンクにしても、正直孫さんであれば、付き合いきれないと思った瞬間に通信事業者としてのソフトバンクを三木谷さんあたりに売り払って投資専業になるくらいやりかねない気がしますし、役所の規制をすり抜ける方法くらいいくらでもありそうです。規制すり抜けに関しては人後に落ちない欧州系投資家や各地の財閥にしても同じです。中国系メーカーを相手にすれば儲かると思うなら、連邦政府の裏や寝首くらい平気で掻くでしょう。2年後に規制しないほうがましだったなんて状態になっていなければよいのだけどという気がします。

■2018年12月23日(日)  より安く、より使いやすく?
海外旅行時のピンチを救う「ドコモワールドカウンター」――4割値下げで先行き不安なサポート体制の行方
何をもって過剰サービスと考えるかはいろいろあると思いますが、何でもかんでもdocomoが便利という状況がむしろ問題かもしれません。同じ事業者で玄人向けと素人向けのプランを分けるよりも、玄人向けに窓口を絞っているがその分安い事業者と素人向けにサービス料の入った間口の広い事業者とで、同じくらいカバレッジが広くて安定した通信ができることが望ましいです。今だとどうしてもカバレッジや信頼性の面でdocomo > au > softbankになってしまいますし、MVNOではdocomo網でも何かしら問題が出ることがあるので、メインの回線がdocomo一択になってしまいがちです。
この点では、docomoが安価な(というかエンドユーザー向けサービスを含まない)回線使用料でのホールセールに特化し、ユーザーサポートは全て回線リセラーが背負うというのがきれいかもしれません。とはいえ、やはり上下をすべて握って儲けるのがNTT系の商売という気もするので、こういう発想は歓迎されないのでしょうね。
どちらかと言えばMVNO向け回線使用料が下がらないこと、回線の使用条件が厳しいことの方が問題とされていたように思うのですが、最近は三大キャリアのコンシューマー向け通信料の方が注目されているようです。役所や政府は上下分離という話はあきらめたのでしょうか。
ユーザーサポートのコストを問題視するなら所持を免許制にして、学習コストをユーザーに転嫁することも一案とは思いますが、とにかく普及したい、数を売りたい側としては誰にでも売れてサービスにコストをかけてその分以上を請求できる制度の方がよいだろうとも思います。石川氏はコストの高いサポートサービスに不満を感じているとしても、三大キャリアはむしろ儲けどころとでも思って歓迎しているのではないかと思います。

■2018年12月21日(金)  本人確認の仕組みに問題がある気がします
ソフトバンク障害は“他人事”ではない デジタル証明書のヒヤッとする話
そもそも現在のデジタル証明のシステムは、ここまで多数の証明書を発行・管理することを想定していないのではないかと思います。デジタル証明書は、特定の目的に対して発行される傾向があります。普通は証明書というと、運転免許証やパスポートのように、どんな場でも、だれに対しても通用するものを想像するのではないでしょうか。しかし、デジタル証明書の場合、おそらく検証手順が目的毎に異なっているため、例えば実行ファイルに署名するための証明書、WebサーバーでSSLを使うための証明書、クライアントで実行されるスクリプトに署名するための証明書などはすべて異なりますし、発行も個別に行われます。その都度発行審査を受ける必要がありますし、発行を受けるコストも相当なものです(例えば発行手数料以外にも、国際的に承認された機関により保証された記載事項証明を提出させられたりします)。もちろん審査する方も信頼性がかかっていますから真面目に審査しているはずですし、メニューを拡充するのもただでは済まないわけですから、安くないのは相応の理由があると言えます。しかし、どのプロトコルであってもこの種の証明書でないと認証ができないかというと、どうもそうとも言えないような気がします。まずHTTPやSMTPのように任意のノード同士がつながる場合は証明書以外の確認手段がありませんが、それこそ隣接するネットワークの間での接続が前提となるようなプロトコルや、いわゆるデジタル証明書、つまり正規の発行機関が発行したデジタル証明書以外の方法でも証明が可能な場合があります。また証明書を使わないわけにはいかない場合でも、目的毎に証明書が異なるというのは認証手順を実装する側と証明書発行者の都合です。現状の制約が合理的かどうかについては、議論の余地があるでしょう。

■2018年12月21日(金)  なんというか、いまさら?
Windows 10プレビューに“サンドボックス”機能。隔離環境でEXEファイルを実行可能に
非常に良い機能だとは思うのですが、いまどきダブルクリック一発で実行できるexeというのは、インストーラーくらいしかないような気もします。とはいえブラウザからうまく使えれば、便利かもしれません。

■2018年12月21日(金)  いつでもそこにある(べき)
いつも以下でもなくいつも以上でもないモバイルネットワークを
本記事で山田さんが紹介している事例は、かなり大きな意義を持ったものだと思います。もちろん同記事の読者層であれば、スマートフォンが無線LAN機能を持っており、一部の機能(携帯電話回線を用いた通信機能や携帯電話加入者情報を用いた認証を使用している機能など)を除けばたいていの機能は無線LAN接続でも利用できることは知っているはずです。区の施設に思い当らずとも、駅やファストフードショップといった場所で接続できないかどうか試してみることは思いつくでしょう。とはいえ、それをスマートフォンを使っている全ての人に求められるかどうかというと…ギガが減るのはかなり問題になっていますので、それなりに普及した知識だとは思いますが、厳しいところでしょう。
一方で、繰り返しになりますが、サプライヤーは個別の通信網が頑健でないということを前提にした対応が求められます。ちなみに山田さんが提案している無線LAN環境の用意ですが、有名アーティストのコンサートというと最低でも数千人の人出になるはずで、それが受付という狭い空間でサービスを使用することになります。無線LANがそのような環境で使用できるのかどうかについては、十分検証が必要かもしれません(例えば小寺・西田の金曜ランチビュッフェvol.201対談で、コンサート会場で観客の入場が始まるとWi-Fiが切れるという話が出ています)。

■2018年12月14日(金)  就労資格が厳しいかというと…
外国人の色々
3年ビザが取れたようで、おめでたいことです。
個人的な感覚ですが、日本の滞在査証制度は、受け入れ側さえ準備を整えていれば他の先進国と比べて滞在や就労が難しいということはないと思います。ただし、一時滞在からの切り替えや留学査証からの切り替えが狭き門であることは否定できません。とはいえ、それは滞在資格制度よりも雇う側の準備の問題のような気がします。外国人の就労に規制があるのは、おそらくたいていの国で同じです。初めから外国人を雇う前提の雇い主は、就労査証への切り替えを含めた手続を扱う仕組みを設けていますが、そうでないところは、雇ってくださいと言われたところでそもそも何をしていいかすらわからないでしょう。雇う側のリテラシーのなさが問題なのは、手続はエージェント任せのブラックな雇い主にも近いと思います。その点も含めて、日本という国が外国人慣れしていないと言われれば、反論のしようがありません。
人件費の安い国から人買いをしてくるのに規制が厳しいというレベルの外国人就労問題と、海外でまともな募集をしている就職先が少ないことを含めて就労目的での入国が難しいという問題、そしてすでに国内で就学・就労している外国人の就職・転職が難しいという問題は、どうも分けて考えた方がよいような気がします。

■2018年12月14日(金)  DSDSが解決策とはなかなか言えませんね
エリクソンが世界的障害を起こし、ソフトバンク網がダウン――5G、IoT時代に向けて、一抹の不安
インターネット的には、回線障害というのはありうることなので、もう一本回線を用意しろで済んでしまうのですけど。少なくともインターネットの仕組みに基づいて作られているシステムであれば、回線が切り替わったところで一時的なセッションの切断だけで済むはずですし。とはいえ、DSDSになればよいかというと、なかなか予備回線を契約しろとまでは言えないと思います。それこそメジャー三社からひとつづつ回線を契約するくらいでないといけないわけで、docomoとdocomo回線のMVNOの契約をしてもこの場合意味がありません。
今回のトラブルがどうにもお粗末な感があるのは石川氏も指摘する通りで、メーカーは出荷時検査をやったのかというレベルですが、回線事業者も十分な検収作業が求められるような気がします。運送業者が回線を二重化していなかったのは業務システムとしてお粗末というか、個人事業じゃないだろうと突っ込むところだと思います。とはいえユーザーの端末に頼ったサービスが使えなくなったのは仕方ないと言えるかというと、そういうものではあるのですが割り切れないものはあります。ユビキタスネットワークというのはこのあたりも研究対象であったはずで、それこそ一部の回線がダウンすることによる迂回回線の一時的輻輳まで含めて研究例があるはずですが、自社設備が完全にダウンした場合の他社設備の利用まで事業的に研究した例というと、日本では鉄道事業者の振り替え輸送くらいかもしれません。

■2018年12月12日(水)  温度を測れるフライパン
デジタル温度管理で料理のストレス軽減 Temp Pan自腹レビュー
珍しく役に立つITです。調理中の鍋の温度管理というのは結構厄介で、クッカーの類は自動で温度管理ができるので安定した調理が可能なわけです。そのものずばりの調理用温度計や、温度の測れる菜箸などもあるのですが、おそらく持っていることを忘れるでしょう。鍋なら存在を忘れることは(別にもっと良い鍋を入手した場合以外)ありえないので、鍋に温度計がつくというのは便利そうです。22cmと26cmがあり、深さはそれぞれ4.2cmと5.5cmだそうです。まあ、普通にフライパンですね。注意点としては、洗うときに柄を濡らしたりごしごしこすってはいけない(テフロンコート鍋はあくまでも柔らかいスポンジでやさしく洗いましょう)ということです。値段は結構するようです。炒め物、ソテー、焼き物に、煮物、茹でるあたりが想定されているようで(もっとも深さ5.5cmの鍋で茹でるのが良いかどうかは気になります)、ディープフライはやはりフライヤーでするようにということでしょう。

■2018年12月10日(月)  何でまたリンクに対して請求権を設定したのか理解に苦しみます
2か月も前の話ですが、EUの著作権指令改正案が欧州議会で成立したそうで、それに「リンク税」の規定が含まれています。採決は二度目の正直らしいですが、欧州議会専門と思しき評論サイトの記事がこれParliament adopts its position on digital copyright rulesこちらのブログ記事(EUの「リンク税」導入案、来年1月に成立か 反対派は猛抗議)からたどったものです。どうもこの件はまともな評論が検索に引っかかってこず、おそらく議事録で討論を読んでみないとどういう事情でこういう制度を提案したのかわからなさそうですが、「Tech giants to share revenue with artists and journalists」ということらしいので、おそらく記事単位でクロールして誌面というかリストでしょうかね、そういうものを作ることに対する規制なのだと思います。
とはいえ、どうにも雑誌社や新聞社の安易なサイト作りを保護しているようにしか思えません。雑誌社や新聞社は、ある意味記事を買って掲載料を記事を作った人に払い(新聞の連載小説やコラムなどがこの形だと思います)、複数の記事を載せた紙面ないしデータベースの閲覧料を購読者から徴収しているわけです。紙の紙面の場合引用における出典記載から元の記事をたどることはできず、本屋なり図書館なりに行って掲載紙を見ることが必要になります。本屋で買うならまさに閲覧料の支払いになりますし、図書館で見る場合でも図書館は購読料を払っています。ハイパーリンクの場合でも、大半の事例においてこの類型ではないかと思います。上記の評論記事を読む限り、この類型についてリンク税を請求する権利が発生するかどうかは疑わしい気がします。一方で、アクセスが可能であれば、雑誌社や新聞社のやっているような記事目録の作成が、第三者によってできてしまうことは確かです。記事を集めてくることが雑誌社や新聞社の存在意義であり、それを記事単位でバイパスしてしまうことは問題、そういう理解は確かに可能かもしれません。この場合に、記事目録の作成者が記事目録から収入を得ており、本来雑誌社や新聞社のサイトを利用者が閲覧することによって得られるはずの収入が得られなくなっている(広告料でサイトを運営している場合などはそうなりえるでしょう)とすれば、リンクに金を払えと言いたくなるのも理解はできます。とはいえ、リンクの場合、記事本体は通常提供側のサーバーにあります(まあ、安価で融通の利かないレンタルサーバーかもしれませんが)。つまり記事の提供をコントロールすること自体は十分可能であるわけで(例えば購読契約を結んだ特定のサイトを参照元としないリクエストにはエラーページを投げるとか、特定のサーバーからのクローリングを禁止するとか)、どうにも「ちゃんと考えたのか?」という印象をぬぐえません。
記事ひとつの購読料はそれこそ閲覧単価で1円にもならない可能性があり、それをいくつもまとめることで全体として千円なりの冊子を作り、大勢から購読料を徴収して運営費と掲載料の原資にするというビジネスモデルから見ると、記事ごと・閲覧ごとにばらされたアクセスでは購読料の請求すらままならない(請求の手数料で赤字になりかねない)ことは予想できるので、もう少し取りやすいところから取れるようにしようというのは技術論としてあり得ます。それが文芸作品や音楽作品における著作権のありようであることも理解できます。ただし、著作権の制度としては作者と多数の購読者を結びつけるところで利権が発生する仕組みになっているのに、安易に「artists and journalists」と言ってしまうことにはうさん臭さを感じます。おそらく作者からすれば記事が売れればよいわけで、それを目録にするのがLe MondeであろうがGoogleであろうが本質的な違いはありません(もちろんLe Mondeが築いてきた権威というのは簡単に無視できるものではありませんが)。購読者からすれば掲載紙というのはそこにアクセスすれば記事にたどり着けるという点でGoogleの目録と違いはありません(信用性の判断において定評ある新聞・雑誌の記事であることはそれなりの重みを持ちますが)。もちろん雑誌や新聞の企画記事のように、編集部全体が制作に関わる記事もあるわけですが、この場合でも新聞や雑誌の発行と記事自体の作成・提供は分けて考えることができます。お金を徴収する単位として雑誌や新聞があるからその編集部が記事を作ることがありえるわけですが、外部の取材チームが記事を作って配信業者に売っても同じことです。
ネットが一般向け雑誌や新聞と異なる配信モデルになっている理由はおそらく単純で、学術論文の配信がモデルになっているからです。学術論文というのは、当然学術誌に掲載されるわけですが、編集部は集まってきた記事のチェックくらいしかしません(査読と言います: もっとも査読には相当高度な専門的見識が要求されますし、投稿者も読み手も専門家ですから、いい加減なことをすると編集部の評判が下がります)。読み手も(少なくとも20世紀後半においては)掲載されたすべての記事を読むようなことはなく、記事単位のコピーや抜き刷りという形で、記事単位で流通します。単価は非常に高く、冊子体の年間購読料が数十万円(図書館の場合は百万円を超えることもあります)、冊子の抜き刷りの代金は投稿料と合わせて投稿者が負担します(投稿者が買っておき、例えば就職活動の際に採用選考者に差し出したり、知り合いに配ったりするのです)。「特集号」のような企画もありますが、だいたいは外部からの提案です。そこまで強気に出られない発行体の場合はどうなるかというと、編集がボランティアになります。意欲のある人が集まって記事と読者を集めて、実費で配布するわけです。この場合当然書く方もボランティアです。この配布部分を研究所の設備を使って機械的に行うのが、ネットの原型と言ってよいと思います。また学術論文は抜き刷り単位の課金も普及しており、大手の出版者の雑誌に掲載された論文であればクレジットカードで買えます(それだけ高いのですが)。
こんなモデルが閲覧単価数円の記事に合うわけもないので、見本配布程度の扱いならともかく、真面目に儲けようとするなら流通の仕組みをしっかり考える必要があります。
また法律にする場合、その時の仕組みをそのまま追認すると矛盾が出ることがままあります。矛盾くらいならまだいいですが、今時は特定業界の保護と叩かれかねません。そこで、多くの人が受け入れられる理想を掲げてそれに即した形で仕組みを落とし込んでいきます。日本の著作権制度で言えば著作隣接権あたりがその仕組みで、あくまでも作者と利用者をつなぐ機能として、出版のような仕組みとそれに関わる権利が導入されています。出版の権利自体も作者が持つ権利で、それを権利料を払った他人に代行させているというのが建前です(実際は流通チャンネルを持つ出版社の方が強かったりしますが)。著作権自体、日本では職務上の著作を除いて譲渡できず、あくまでも作者の権利という位置づけです。
ではリンクについてはどのような仕組みならば理解を得やすいのか。リンクについても、作者と利用者をつなぐというのが理想論になるしかありません。記事を集め、目録を作り、配布するのは手段でしかありません。この理想論からして最も理想に近い形は、作者に利用者が直接閲覧料を払う形です。作者が自分で構えたサーバーに記事を置き、課金システムを用意し、サーバーにアクセスがあれば決済が行われます。この仕組み自体は作ることが可能です。問題は二つ、数円程度の単価については非常に煩瑣であることと、目録の自動作成に一手間必要であることです。前者は言うまでもないとして、後者は少し説明が必要かもしれません。ネット上での検索というのは、多数の文書の中から条件に合致するものを取り出して目録にする作業です。Googleあたりはこの作業を文書の提供者と閲覧者に代わって行っているわけですが、この作業のために検索代行者に本文を提供した場合、本文データが流出することになります。本来本文データには閲覧単位で課金したいわけですから、検索代行者に流出するのはうれしくありません。表題などだけを提供する方法もありますが、この場合、良くても本来条件に適合している文書が不適合と判断されるリスクが生じます。検索代行者が配信業者を兼ねるのも一案ですが、これはオープンとは言えないでしょう。特定の検索代行者にアクセスしなければ、そもそも文書を見つけることすらできません。方法としては、提供者側で転置インデックスないし索引を提供し、検索にはそちらを使うというのもあり得ます。これなら、インデックスの作り方次第では本文と同程度の検索性を保証でき、かつインデックスから本文を復元することは困難です(そもそも検索のために本文を組み替えたものが転置インデックスなので)。もっとも復元は困難なだけで不可能ではないでしょう。とはいえ、これは作者の管理下にない複製物の検出という、別の問題ではあります。むしろ、本来の本文データへのリンク(ここへのアクセスは課金を発生させることになります)を検索エンジンに周知させる仕組みの方が問題かもしれません。

■2018年12月10日(月)  Apple Storeの閉鎖性を考えると仕方ないような気がします
政府がアップルを「GAFA」で括るのは間違いだ
こと個人情報の扱いに関しては、AppleはFacebookやGoogleとは方針が大きく異なります。この点は石川氏の指摘する通りです。しかし、例えばGoogle、Appleなど巨大IT企業の規制強化へ 政府の有識者会議が提言「透明・公正性の確保必要」が指摘するように、ユーザーの行動を一定のプラットフォーム上に囲い込もうとする方針やサービス利用の枠組みの不透明性を有識者会議が問題としているのであれば、いわゆるGAFA (石川氏の言うようにこれはあまり良い言葉ではないと思いますが)のいずれも問題とされても仕方がないと思います。
というか、経済産業省主体の聞き取りで個人情報保護?というのがこの記事の感想です。個人情報保護は総務省の所管事項だったはずで、経済産業省が出てくるなら産業政策や競争政策でしょう(後者は公取かもしれませんが)。実際SankeiBiz記事でも「経済産業省、公正取引委員会、総務省が7月以降に非公開で開いていた有識者会議」となっています。個人情報の取り扱いの枠組みも問題とはされたでしょうが、独占や優越的な地位を利用した取引の問題も大きな部分を占めていたと考える方が妥当だと思います。

■2018年12月08日(土)  オルタナティブどうするつもりなんでしょうか
ソードアート・オンライン21 ユナイタル・リングI
いよいよ新章突入です。しかし、ネットワークを作ったら全部合わせてみるというのはお約束と言ってもよいのですが、ザ・シード規格のVRMMOが全部回収されたのなら(少なくともシノンが回収されたのは確定ですし)レンとかピトフーイとかナユタとかコヨミとかもコンバートされてしまったことになります。もちろん初動のごたごたでバッサリ皆殺しにすることはできるのですが、ここまで風呂敷を広げておいてその落ちはもったいないと思うのですよね…初動では装備重量が比較的軽くて済みそうな、GGOのSMG持ちあたりが有利そうですが(おそらくシノンとベヒモスはメインアームがストレージの肥やし確定です)、弾薬の補給がままなりません。アスカ組は軽量な装備が多いと思いますが、マヒロは甲冑は着られないでしょう。そしてパラメーターがラック全振りの探偵さんの使いどころが見ものです。クロネコの事務所はおそらく統合を免れていると思いますが、ザ・シードベースでVRオフィスを立ち上げていたアスカの運営や優里奈のプライベートワールドは取り込まれている可能性があります。まあ、後者にはPCはいないはずですが。アンダーワールドもザ・シード由来なので、グロージェンが作ったバックドアが生きているならそこから取り込まれた可能性があります。
そして、オルタナティブに時系列上の締め切りが切られたとみるべきでしょう。作中2026年9月27日時点で全てのゲームが合流します。いずれ各運営体がバックアップを巻き戻すなどしてゲームを再構築するでしょうが、アカウントデータにコンバート済みフラグが立っている場合復活しないような仕様になっていると考えるのが整合的なので、アンダーワールド事件に続くアカウントのロストが発生した可能性があります。その場合ゲームの運営が再開されてもキャラクターメーキングからやり直しという…

■2018年12月08日(土)  キャリアから端末を買うのが普通と言えるのか
総務省が「完全分離プラン」を求める緊急提言を発表――画一的な料金施策を求めることが競争になるのか
ここまで来るとわりとすがすがしいくらいすれ違っている気がしますが、そもそも電電公社を民営化した人たち(正確にはその弟子あたり?)にとっては電電公社が端末をレンタルしているような商法自体が気に入らないのではないかと思います。コンビニでSIMを買って挿しこめばどの端末でも使え、MNPで月単位で契約を切り替えられ、今回のソフトバンクのような粗相があれば数か月で過半数の契約が他の業者に流出するというのが、おそらくモバイル市場の競争環境に関する研究会の理想像だろうと思います。さすがに絶え間ない価格競争で回線業者同士の叩き合いになって欲しいとまでは思っていないと思いますが…過当競争になっても仕方ないくらいは思っていそうです。
しかし、石川さんは何をもって「ユーザー視点」に立つべしというのでしょうか。ハイエンド端末を売りたいというのは端末メーカーと回線業者の視点であって、そもそもほとんどのユーザーはハイエンド端末のメリットを評価できてすらおらず、端末メーカーと回線業者、プラットフォームメーカーのシェア競争に踊らされているだけではないでしょうか。数万円する機材がわずか数年で型遅れになる(くらいならまだよいですが、実質的にはセキュリティ上のリスクにすらなる)のがユーザー視点で見て妥当でしょうか。割引がなくなれば端末の売れ行きが止まりかねないというなら、そもそも端末の値付けが間違っており、割引適用後程度の価値しか認められないということでしょう。ならば、その価格の範囲で端末を製造するのがメーカーの在り方で、回線業者と結託してキックバックを受けるというのは反競争的と言われても仕方ありません。
もちろん、そもそも回線契約と端末で別個に競争的市場ができることがユーザーの利益にならない可能性はあります。回線業者によって使用できる端末が異なる状況などはその一例でしょう。この場合、回線業者の設備と適合しない端末はそもそも使えないわけですから、回線業者が責任をもって端末まで提供することが妥当ですが…これ、電電公社のシステムと違わないですよね。もちろん電電公社の民営化や新規参入政策がそもそも間違っていたというのならそれはそれで一貫するのですが。

■2018年12月03日(月)  こっちはちゃんとビジネス記事なんですね
続・自動車メーカーの下請けいじめ
10月29日の記事も合わせて。この主張は適切で、経営論から言えばいじめてくるような取引先はこちらから切るべきですし、そこに依存しているとすれば早期の対応が必要でしょう。ただしそれは会社の所有権についても同じであって、文句があったらスキャンダルをリークするのではなく株式を買い戻すべき(会社が自社の株式を買い入れるのはそれなりに制約がありますが、経営者や他の株主が情報公開して買い取る分には問題はありません)だとも思いますけど。そもそも潰れかけた会社を再建する体力や社会の理解がなかった時点でLBOにあっても文句は言えません。
とはいえ、合理化圧力自体が妥当かというと、正直リーン生産方式を含めて外注いじめと言われても仕方がない部分はあると思います。それで発注側を非難すれば解決するとは全く思いません。むしろ事業転換融資なりの産業政策の出番でしょう。とはいえ中国のダンピング疑惑と同様に、立場の非対称を含めて、非難されるべき事実はあるでしょう。評論家が寡占企業の幹部の側から報道屋をポピュリスト呼ばわりするよりも、自称ジャーナリストが非効率な中小企業を擁護する方が納得しやすいです。
1950年代以降の企業統合や事業規模の拡大は、どうも効率化を意味すると考えている人が(池田氏もそうだと思うのですが)多いようですが、正直昭和的ドグマではないかという気がしてなりません。

■2018年12月03日(月)  貴様が言うかって
プログラミング教育、ハードやネット環境でも前途多難〜WDLCがプロジェクト進捗状況を報告
「Windowsは多様なデバイスを生み出せるOSではあるが」いや、そもそも拡張用ハードウェアメーカーが追従しきれないほど仕様を変えまくった挙句にセキュリティ目的で縛りをかけたのはそちらの会社だと思うのですが。自宅の自己責任PCならともかく、授業用のPCに怪しげなハードウェアをつないで問題が起きない設定で管理するというのは、それなりに専門知識がいると思いますけどね。5000円もする技術書を丸々一冊ちゃんと読まないと適切な設定ができないのでは、専門職と好事家しか使えないですよ。

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