■2018年07月28日(土)
ISPに対するサイトブロッキング命令の法的論点
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小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」182論壇 記述の通り、「通信の秘密」という論点がありますが、それ以外に、同記事参照の会議資料のうち「ブロッキングの法制度整備に関する民事手続法上の論点」(資料3)や「サイトブロッキング請求権の法定をめぐる憲法的課題」(参考資料1−2)を読むと、ISPが著作権侵害の当事者ではないのに行為(つまり特定のサイトのブロッキング)を命令できるかという論点もあるようです。何か判例がありそうなものですが、参考資料1−1ではブロッキングの検閲相当性について国内では判例がないと述べたうえで、検閲の解釈についての類例として札幌税関検査事件を挙げており、資料1−2ではEUにおける判例に関する研究を挙げるに止まっています。資料4において手続についての類例として第三者所有物没収事件が挙げられています。 小寺氏は参考資料1−2における行政処分型について「憲法の要請により行政が実行できないから、変わって(代わって?)司法が行政行為を行うというのでは三権分立が骨抜きではないかとの批判は免れない」とコメントしていますが、非訟事件と言えども裁判所による審査のうえで相手方に対して防御も認められる(それが終局決定に対する抗告などであっても)わけで、逮捕や捜索の令状発行を裁判所が行う程度の妥当性はあると思います。もちろん適用に際しては、証拠の隠滅や被疑者の逃亡の防止と同程度に厳密な要件を課し、ブロックされた者や命令を受けたISPには事後的な疎明や妥当性の審理の機会を与えるべきでしょう。 参考資料1−1などでは、「当該サイトを閲覧したいと考える者の「知る自由」を制限することになる」と述べていますが、どうも理解が難しいです。作品自体の閲覧のために海賊版を閲覧する自由ではないと思いますので、まず海賊版サイトとしてブロックされたサイトにおいて提供されている独自の内容を閲覧したい者の知る自由、そしてどのような作品がブロックされた海賊版サイトにおいて提供されているか、あるいは海賊版と正規版の相違点などを知りたい者の知る自由ではないかと思います。この種の自由については、税関による海賊版の没収が参考となるように思います(なお先に挙がった札幌税関検査事件自体はわいせつ図画についての事件ですが、海賊版も関税法69条の11に関わる話なので、類推はできそうです)。ただしこの場合没収された本人が反論できることを考えると、ブロックされたサイトへのアクセスを妨害された人がブロッキング命令に対して無効を申し立てることができそうです。これについては、サイトについてのブロッキング自体を無効とするか、申し立ての理由に基づく個別のブロッキング解除か、考慮の余地があるでしょう。また申し立ての相手方が申し立てる人の接続する(あるいは接続を中継する)ISPになるのか、行政機関なり裁判所なりに対する不服申し立てになるのかも考慮の余地がありそうです。リクエストやパケットがどのようなルートを通るか、その経路のどこでブロックされているかを調べて個別に請求しろというのはいささか厳しいですから、ブロッキングの命令を決定した者に対する不服の申し立てになるように思いますが、ブロッキング命令の無効ならともかく、個別の解除の場合そもそも検閲にならずに技術的に可能であるかどうかが問題ではあります。 | | |